(インタビュー後編)日本とパレスチナ・イスラエル 報道の問題点、私たちとの関わりは【東京大学中東地域研究センター・鈴木啓之先生】

分離壁で分断されたヨルダン川西岸地区(写真は全て鈴木先生のご提供です)

この記事のまとめ
Q. パレスチナ・イスラエルに関して日本メディアの報道は適切なのか? 私たちがこの問題について学ぶ意義とは? 
A. 報道の中の「暴力の応酬」という言葉はパワーバランスの本質を見失いかねない。パレスチナ・イスラエルの現状に目を向けることは、私たちの望む社会を作っていくことに繋がる。

引き続き、東京大学中東地域研究センター・鈴木啓之先生にお伺いしました。

日本政府もパレスチナ・イスラエルで起こっていることに対して声明を発表しましたね。

日本は両者に対してかなり一貫して均等にアプローチしています。ただ、暴力や武装衝突に関しては、双方による「暴力の応酬」という理解に行き着いていることを問題に感じています。

「暴力の応酬」という言葉は日本のメディアでも使われていますが、なぜ問題だとお考えなのでしょうか。

イスラエルとハマス(パレスチナ人組織)の間には、圧倒的な力の差があるからです。この問題は「国家VS地方武装組織」という構造で成り立っているので、「暴力の応酬」としてしまうとこの問題のパワーバランスを捉えきれず、解決に向かうアプローチも間違えてしまうことになります。ハマスが「イスラエル政府が事態のエスカレートを望むなら準備がある、停戦を望むのならそれにも準備がある」とコメントしていましたが、やはり主導権はイスラエルにあると考えて良いでしょう。

一つ改善されたと感じられる点は、ハマスのことを「イスラム組織」と報道するようになった点です。昔はイスラム原理主義組織と説明されていたのですが、ハマスはイスラム国やアルカイダなどとはかなり異なっています。

ハマスとIS、アルカイダの違いについてもう少し詳しくお聞かせいただけますか。

今から10年ほど前になりますが、イェロン・ガンニング(Jeroen Gunning)という研究者がHamas in Politicsという本を書いて、ハマスが政治組織としてかなり現実主義的なアプローチを採用していることが論じられました。5年前に出版されたエリカ・シュヴァルツェ(Erika Schwarze)のPublic Opinion and Political Response in Palestineという本も、ハマスが住民の意見、または「世論」というものにかなり意識を向けていることを明らかにしています。こうした現実主義、さらには世論への配慮というのは、「イデオロギーに凝り固まった集団」というイメージから、かなりかけ離れたものだと思います。

エルサレムの街の様子。

日本に暮らす私たちに、この問題はどう関係があるのでしょうか。

会は今、試されていると思います。言論の自由や民主主義など、私たちがこの問題と共有する価値観に対してどうアプローチするのか。日本は国際世論の一部として存在していますが、現状を深く考えていくことが、今後の社会を作っていきます。事態の推移を見守るだけでも十分なので、とにかく無関心でいないことが重要です。

パレスチナ・イスラエルにどう向き合うかということですが、例えばコロナウイルスの対策の際、「指導者だけがワクチン接種をすれば終わり」ではないですよね。それと同じように、打ち捨てられているガザの現状や、空爆、入植の様子をみて、私たちが望ましいと考える社会の一員にパレスチナを含めて考えることが大切です。

今後、この問題が解決へと発展することは可能なのでしょうか。

市民レベルでの共生が鍵になると考えています。和平交渉の再開は重要ですが、イスラエルもパレスチナも、現在は交渉のテーブルについていない状態です。イスラエルにはパレスチナ問題に煩わされず、経済的に発展したいという思惑があり、ガザのように地区ごと封鎖しているという現状もあります。

今はある一定の周期で衝突が繰り返されているので、例えば連邦制国家や二民族二国家など、構造そのものをラディカルに変える必要すら生じていると思っています。政府レベルでの交渉がオスロ合意以来30年間も成果を上げていないので、これからは市民レベルでの信頼構築に期待しています。