ベイルートはアートの街!?~通りを埋め尽くすグラフィティの力~

地中海に面するレバノンの首都ベイルートは、中東アートの最先端が集まる街。

小奇麗なギャラリーや地元のアーティストによる展示販売におさまらず、通りは色彩豊かなグラフィティに埋め尽くされています。

“グラフィティ”とは、公共の通りや建物にスプレーやペンキで描かれる絵や文字など。世界各地に存在するアートのスタイルですが、ベイルートのグラフィティは一味違います。アーティスト魂が込められた至極の作品はユーモアと遊び心を忘れず、時に政治的メッセージを力強く叫ぶ。そんなエネルギッシュなグラフィティを通して、ベイルートの風情を感じてみませんか。

誰もが足を止める、ベイルート名物グラフィティ

まずは人気のグラフィティから。

ベイルートの中でも特に多くのバーやギャラリーが集まるマル・ミハエル地区は、若者たちのホットスポット。そんな街の一角にあるのが、チュニジア系フランス人のエル・シード(El Seed)によるグラフィティ。アラブ諸国の各地で活動する彼のカリグラフィをアレンジした作品は、賑やかな通りにさらに花をそえています。

真ん中には「ベイルートは自転車に乗るとより美しい」のメッセージが。車社会のレバノンで環境のために自転車を推奨する若者たちもいますが、車の運転の荒さと整備されていない道路はあまり自転車向きではありません。そんなスリルも合わせて、エル・シードはおすすめしているのでしょうか。

繁華街を繋ぐ道路のど真ん中に表れるのは、アラブ諸国で大人気のレバノン人歌手、サバーフを描いたグラフィティ。精巧な作品で、渋滞にはまった人々を癒します。彼女を模したグラフィティはこれだけではなく、ベイルートに複数。グラフィティの数や規模で愛されようがわかります。

この作品を描いたアーティストグループ、アシェクマーン(Ashekman)はベイルート中に多くのグラフィティを描いてきました。内戦やその後の紛争で傷ついた建物や通りの壁にグラフィティを施すことで、悲惨な歴史からベイルートの通りを取り返し、そこに暮らす人々のものであることを表現しているという彼ら。街に明るさを散りばめています。

アシェクマーンが手がけるグラフィティの一つには日本のアニメを題材にしたものも。「グレンダイザー」という作品に登場するロボットにベイルートで出会えるかも。

 
 
 
 
 
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グラフィティでスラムを活性化

そんなアシェクマーンも参加した、グラフィティを通してスラム街を改革するプロジェクトが行われたことも。ベイルート郊外にあるオウザイは、内戦の影響で住む場所をなくした人々が集まり暮らし始めた場所。長年政府から見放され、マフィアや違法品の売人の温床と化しました。そんな街をクリーンにし、活気を取り戻したい、という思いで始まったのが「Ouzville(オウズヴィーユ)」プロジェクトです。

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寂れた建物の壁をカラフルに装飾することで、街を華やかにし、観光客を集めようとしました。その過程で、世界中からアーティストを募り、スラムに住む子どもたちと共にグラフィティを描いていきます。活動に興味を持った人や、カラフルで人が訪れやすくなったオウザイには、一時多くの人が訪れ賑わいました。

後に住人たちの賛否や外国人の出入りへの不信感などからプロジェクトは中断されてしまったものの、グラフィティは街と子どもたちに少しの彩を加える大きな役割を果たし、今でも街はその色彩を保っています。

 
 
 
 
 
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アートで政治に物申す

日常で人々を魅了する “いつものグラフィティ” だけではなく、突然表れることも。抗議デモに際して描かれるグラフィティです。

レバノンの政治は不安定。政府はかろうじて存在していますが、機能しているとは到底言えない状態が長年続いています。政治家の汚職や腐敗があらわになると、その度に人々は広場や通りでプロテストを行ってきました。そんな時もアーティストの心を忘れないレバノン。グラフィティも大活躍します。

ベイルートの中心であり、プロテストとなれば人々が一気に押し寄せる殉教者広場。大きなモスクと教会が隣接し、モザイク国家レバノンを体現している場所でもあります。国中から訪れた変革を求めるアーティストたちが描くのは、理想のレバノン像や腐敗へのメッセージ。国会の目と鼻の先にあるこの広場をグラフィティで埋め尽くし、堕落した政府に突きつけます。

プロテスト期間中、街中に散在する「革命(サウラ)」の文字。

かなりクオリティの高いグラフィティも多く、プロテストに来た人々は写真撮影も忘れません。

2019年10月に始まった国内最大規模の抗議デモでは、丁度公開していた映画『ジョーカー』に描かれる権力への抵抗が重ね合わせられることも。しばしばジョーカーがグラフィティとして現れました。

グラフィティを通して皮肉なメッセージを発信することはもちろん、アートだからこそ、体制に異議申し立てる姿勢を真っすぐ伝えられるのかもしれません。

どこを歩いてもどこかお洒落でさりげないセンスが感じられるベイルート。不安定な壁に描かれるグラフィティはその一翼を担い、崩れそうな街を輝かせ前に進もうとするベイルートの人々の心を表しているようでもあります。

「ベイルート」