アラビア語を1日10時間勉強。現役アラビア語翻訳者にインタビュー【シリーズ:中東と私】

アラビア語は難しそう…そんな方のために、今回はエジプト在住のアラビア語フリーランス翻訳者・語学講師の阿比留高広さんにお話をお伺いしました!大学でアラビア語学習を始め、卒業と同時に翻訳フリーランサーになったそうです。一体どのような出会いや経験があったのでしょうか。


始まりは小学生の頃から?!アラビア語との出会い

 アラビア語との出会いは小学生の頃。教科書で各国の挨拶が紹介されていた中で、文字とは思えない奇妙なアラビア文字と出会い、衝撃を受ける。そこから高校までは一般的な教科の勉強に追われるが、アラビア語を学びたい思いは心のどこかにあり続け、大学から本格的に勉強を始める。なぜアラビア語かと言われれば、元々外国語に興味があったのと、何か人とは違うことをしてみたいというひねくれ者で、英語や中国語など周りが学んでいるような言語以外の珍しい言語が学びたかったからで、高尚な思いは一切なかった。その後、アラビア語は立派な国際言語であることを知ったが、いずれにせよ日本では今でもいわゆるマイナー言語に違いない。

クウェートの日本語教室のメンバーと(クウェート留学中)

毎日10時間勉強。アラビア語マスターへの道

 大学で本格的に勉強し始めたとはいえ、専門の学部・学科ではなかったため、第2言語として授業を受けつつ、独学で勉強を進めていった。ただ、正直なところ、大学では自分の専門の勉強や人間関係、学外の活動に追われ、2年生くらいまでは正直あまり本気で集中して勉強していなかった。

 しかし、これではだめだと初心を取り戻し、本気で勉強を始め直したのが3年生。TEDか何かで毎日10時間1か月間何かを続けたら人生が変わるという話を聞いて、試しにアラビア語の勉強を毎日10時間無理やり続けてみたところ、本当に人生変わった。そもそも、アラビア語に限らず自分はこれまでの人生で何かに本気で取り組んだことがなかったことに気がついた。その意味では、人生で一度でも心から本気で頑張ったと言える経験が手に入り、それがその後のアラビア語学習熱に繋がっていった。ただし、この段階では長時間の勉強が可能になったというだけで、語学の実力としては今思えば恥ずかしいほどのもの。

 それから、何度か試験に落ちた後、クウェート政府奨学金制度で1年間のクウェート留学に行き、初めてのアラブ世界でできる限り学んできた。しかし、留学を終えた時点のアラビア語力は、留学前に比べれば格段に伸びたものの、実際に仕事で使うには心もとないものだった。大学を休学して留学したため、帰国してから大学の勉強と並行してアラビア語を独学で勉強し続けた。

 今のアラビア語力は留学で身に付いたというより、留学中に身につけた効率的な勉強法を用いたその後の独学で身に付けたものといえる。半年ほどして大学を卒業し、その後は会社に所属せずフリーランス翻訳者として働き始めた。もちろん最初からうまくいくはずもなく、初めは知り合いからの紹介でもらった仕事で細々食いつなぐような状態だった。しかし、そんな惨めな生活の中で、仕事の取り方や仕事で重要なことなどいくつも重要なことを学んだ。アラビア語の学習は死ぬまで続けていくつもりだ。

クウェートの伝統衣装(ディスダーシャ)をまとった筆者

アラブ人同士でも分かり合えない?アラビア語の魅力

アラビア語の魅力はたくさんあるが、厳選すれば、文字と方言である。

 文字はとても奇妙で、魅力的である。アラビア語は日本人には全くなじみがないにも関わらず、一見文字と思えないような奇妙なアラビア文字だけは、なぜか日本人の中でも有名である。実際私のようにアラビア語の文字の美しさに惹かれて学習を始めた人は多いのではないだろうか。アラビア語は日本語と同様、書道が発展しており、古くから多くの書体が生まれてきた歴史も学ぶと楽しい。何といってもその美しさには毎回驚かされる。

 さらに、実際に翻訳などでアラビア語を使っていると、パソコンで打つアラビア語にもいろいろなフォントがあり、楽しい。ちなみに、アラビア語を極めるとなると時間がかかるが、文字が読み書きできるだけであれば意外と時間がかからないため、一つの特技としてはアラビア文字の読み書きは手ごろの割にはインパクトの大きい特技になるのではないかと思う。

 ちなみに、一般的にアラビア語学習者はフスハー(標準語)から学習を始めるが、実は現地のアラブ人はアラブ人同士で話すときにはフスハーを使わない。フスハーは標準語であると同時に書き言葉であり、国際会議など公式の場や新聞・テレビなどで使われるものの、友人や家族などと普通に話す際には別の話し言葉が使われる。これはアーンミーヤと呼ばれる。これが学習者を苦しめる大きな要因の一つである。どれだけフスハーを極めても、現地の一般人のやり取りはほとんど理解できない。

 さらに、フスハーに地域差はないが、口語であるアーンミーヤには方言の違いがかなり大きく影響する。これは学習者だけでなく、地域によってはネイティブ同士でも通じないほどだ。例えば同じアラビア半島内にあるサウジアラビアとクウェートはお互いに意思疎通可能でも、モロッコなど西アフリカの地域ではお互いの方言では通じない。ただ、これは学習の壁ではあるが、同時にアラビア語の深みであり、アラブ人の心に通じる扉でもある。フスハーでは意思疎通はできても本当に心の通ったコミュニケーションは難しいが、アーンミーヤではそれが容易である。アラビア語学習者には、フスハーをマスターするだけでなく、ぜひアーンミーヤで現地の人と楽しく会話ができるようになることにも挑戦してほしい。

エジプトにて(筆者)

 

今ではアラブ人と話す時間が大半に。人生を変えたアラビア語

 アラビア語学習を始めて間もない頃は「アラブ世界」も「中東」も一括りにして、行ければどこでもよいと考えていたが、今ではその中でもあえてエジプトを選んで住んでいる。元々アラビア語学習のために観ていた映画や聴いていた音楽の多くがエジプト方言だったためエジプト方言を学びたかったのと、縁あってエジプトの方と結婚することとなったからだ。まだエジプト生活は長くないが、いずれ生活が安定してきたら、他のアラブ世界にも住んでみたい。これら全てアラビア語を学んでいなければ不可能なことだった。

 昔も今も、自分からアラビア語を除いたら何も残らないくらいアラビア語に熱中している。昔はアラブ人の友達が一人でもできれば大喜びしていたのが、今では日本人よりアラブ人と話している時間のほうがはるかに多くなった。今思えば、それだけ物事を好きになり集中できることは他にはなかった。しかもそれが実際にお金を稼ぐ手段として使えているのだから、これ以上の幸せはない。

 ちなみに私はコロナとは関係なく、翻訳という仕事の性質上、仕事の受注から納品、受金、送金まで100%オンラインで済ませている。そのおかげで世界のどこにいてもネットさえつながれば同じ仕事ができるわけである。技術の進歩には感謝してもしきれない。ちなみに仕事自体は日本の仕事なので日本基準の報酬だが、エジプトの物価は特に野菜や果物、交通費は日本に比べて10分の1くらいと格段に安い。ただ物価の差に便乗しているだけなのだが、あたかも自分が生まれて初めて金持ちになったのではないかと儚い妄想に囚われながら、熱い砂漠の上で今日も何とか生きている。

(アラビア語講座もオンラインでやっていますので、ご興味のある方はabijapankuwait@gmail.comまでご一報いただけるととても嬉しいです。)


阿比留さんのお話、いかがでしたでしょうか。このお話をきっかけに、少しでも中東に興味を持ってくださる方がいらっしゃれば幸いです。もっと中東のことを知りたくなってきた!という方は、是非MENA watchのインスタグラムツイッターをフォローお願いします。また、「自分も中東との関わりを記事にして伝えたい」という方は是非MENA watchウェブサイトのお問い合わせページ、もしくはインスタグラムかTwitterのDMにてお知らせください。
「中東と私」シリーズはこれからまだまだ続く予定です。どうぞお楽しみに!